この記事では不動産投資で悪用される法人スキームについて解説しています。法人スキームは銀行との契約違反になるのですが、悪用する人が後を絶ちません。バレなければ良いと考えて、気軽に始める人もいますが、バレる可能性は十分あるので、辞めた方が良いです。
法人スキームとは?
法人スキームとは物件を購入する毎に法人を設立し、融資を受ける計画のことです。法人ごとに別の金融機関を利用するのが特徴です。
- A合同会社がAマンションをA銀行から7,000万円の融資を受けて購入
- B株式会社がBアパートをB銀行から5,000万円の融資を受けて購入
- C合同会社がCマンションをC信用金庫から6,000万円の融資を受けて購入
同じ代表者が複数の法人を使い、物件を所有することです
通常の場合は1つの法人が複数の物件を購入しますが、法人スキームの場合は1つの法人につき1つの物件を購入し、法人ごとに違う金融機関を利用します。金融機関は法人ごとに融資枠を設定するため、法人スキームを利用することで、融資枠を拡大させることができます。
1法人で複数の物件を購入しようとして、融資が通過しなかった時に利用するケースが多いです。
法人スキームには様々な呼び方があります。
- 1法人1物件スキーム
- 複数法人スキーム
- 多法人スキーム
呼ばれ方は違いますが、内容は全て同じです。
この法人スキームが利用される理由となる3つのメリットについて解説していきます。
法人スキームによる3つのメリット
法人スキームが利用されるようになった理由は、3つのメリットがあるためです。
- 自分の信用以上の借り入れができる
- 消費税還付を受けることができる
- 速いペースで規模の拡大ができる
自分の信用以上の借り入れができる
法人スキームは法人ごとに融資枠が設定されるので、自分の信用以上の借り入れが可能です。例えば、株式会社の代表取締役の融資枠が1億円だった場合、連帯保証人を代表取締役にすることで1億円の融資を受けることができます。この場合、1法人で融資を受けようとすると1億円の融資しか受けることができません。
しかしながら、10法人で融資をうけることで1億円×10法人分、つまり10億円の融資を受けることができます。法人スキームであれば、本来1億円しかない融資枠を、法人の設立分だけ増やすことができます。複数の法人を持つことで、自分の信用以上の借り入れができるというのが法人スキームのメリットです。
消費税還付を受けることができる
中古マンションなどの住宅用建物は課税対象のため、消費税還付を受けることができます。通常の取引では不可能でしたが、金売買など特殊な手法を用いることによって、消費税還付ができる仕組みがあります。
例えば、土地代1億円、建物代8,000万円の中古マンションを購入した場合、土地の購入代金は非課税ですが、中古マンションの購入代金は消費税が課税されます。このケースだと、8,000万円の消費税10%に相当する800万円が還付でき、物件を購入すればするほど、消費税還付により現金が増えます。
しかしながら、国税庁がこの消費税還付スキームを問題視し、2020年の税制改正により、この消費税還付は2020年10月1日以降利用できなくなりました。そのため、法人スキームを利用するメリットは今後少なくなります。
速いペースで規模の拡大ができる
法人スキームは速いペースで規模拡大できます。1法人で複数の物件を購入するためには原則として複数年経過しなければいけません。銀行は決算書の内容や事業内容を見て融資の可否を判断するので、1棟目の物件の経営状況がはっきりしていないのに、融資をするケースは極めて少ないためです。1~3年程度1棟目の物件を経営し、利益が出ていなければ融資を受けることはできないでしょう。
しかしながら、法人スキームの場合は法人を設立する度に融資枠が新設されます。法人スキームを利用することで、複数の物件を1年以内で購入することが可能になるため、速いペースで規模が拡大できます。規模が拡大することで借入金も大きく増えるので、リスクも伴いますが、物件ごとにしっかり利益を出して経営している方にとっては大きなメリットとなります。
法人スキームをやらない方が良い2つの理由
法人スキームはメリットがある反面、非常に危険です。
- 借入金の一括返済を求められることもある
- 銀行の合併が進んでいるため、ばれる可能性が高くなる
メリット以上にリスクが大きい計画であるため、やらない方が良いです。
借入金の一括返済を求められる可能性がある
法人スキームは銀行との契約違反になるため、バレた場合は一括返済を求められる可能性があります。銀行との融資契約は予定通り返済している限り、途中で一括返済になることは原則ありません。しかしながら、銀行に対して虚偽の申告をしていた場合、融資の全額を一括で返済する必要がある「期限の利益の喪失」という融資契約の条文があります。
法人スキームは銀行に申告しなければいけない事項のため、隠して融資を受けると虚偽の申告と見なされ、期限の利益の喪失に当てはまります。もし、融資を全額一括返済できたとしても、信用情報に傷がついているため、今後の融資のハードルも高くなります。
そのため、法人スキームを利用するのは絶対にやめましょう。
銀行の合併が進んでいるため、情報が共有さればれる可能性が高くなる
法人スキームは法人ごとに別の金融機関を利用する必要があるため、多数の金融機関から融資を受ける必要があります。しかし、近年は金融機関の合併の流れが進んでいるため、融資を受けている金融機関同士が合併し、法人スキームがばれる可能性が高くなっています。
特に信用金庫と信用組合の統合・合併が多くなっており、数が減少しています。平成8年度の信用金庫の数は410、信用組合の数は364だったのに対して、平成28年度の信用金庫の数は264、信用組合の数は151と大きく減少しています。
(参考資料:参議院常任委員会調査室 地方銀行の現状と課題)
近年は異業種の金融参入や長引く低金利政策により金融機関の収益状況が厳しくなっているため、今後も合併の流れは続くでしょう。金融機関の統合・合併の増加により、長期的に見ると法人スキームがばれる可能性は非常に高くなっています。
法人スキームは危険!
法人スキームは危険性が高い計画です。金融機関にばれるリスクが高くなっていますし、ばれたときのリスクも非常に大きいです。借入金の一括返済を求められた場合は物件の損切や最悪の場合、自己破産の可能性もあります。また、2020年10月1日以降は消費税還付によるメリットもなくなるため、メリットも少なくなってきます。リスクに見合ったリターンを得ることができませんので、極力利用しないようにしましょう。
このように不動産投資法人を融資目的で大量に作る行為は、危険なので止めた方が良いのですが、不動産投資法人を作ること自体にはメリットがあります。詳細は不動産投資法人のメリットで解説しています。