不動産投資を始めたいけれど、当初の自己資金を抑えたい、そもそもあまり蓄えがなく自己資金を不動産投資に充てられない、そんな方に役に立つのが不動産ローン。ローンを活用することにより、少ない自己資金で不動産投資を始めることができます。
一般的にはローンを活用するとしても、「頭金」としてある程度の自己資金を不動産購入に充てますが、中には自己資金ゼロで不動産投資を行いたい方もいるでしょう。
今回はそんな方のために、自己資金ゼロで不動産投資を行う方法や、リスク・懸念点を解説します。
自己資金ゼロでも不動産投資は可能?
自己資金ゼロでの不動産投資ですが、結論から言えば、不動産の物件価格の金額を丸ごとローンで調達すること自体は可能です。担保となる購入物件の評価と、購入者自身の信用力が充分に高ければ、物件価格に相当する金額のローン審査が降りる可能性は充分にあります。
ただし注意したいのは、物件価格相当額のローンを組めたとしても「完全な自己資金ゼロ」とはならない点です。不動産投資を行う場合、一般的に次のような初期費用が発生します。具体的には以下の通りです。
- 印紙税
- 事務手数料
- 保証会社保証料
- 抵当権登記設定費用
- 抵当権登記設定手数料
- 団体信用生命保険料
- 火災保険料
- 地震保険料
これらの諸費用は不動産のローンではカバーしていないため、この部分は基本的に自己資金で支払う必要があります。具体的な金額はケース・バイ・ケースですが、概ね購入する不動産価格の5〜10%程度に収まるのが一般的です。
金融機関が高く評価する人はどんな人?
自己資金による負担を減らして不動産投資を行うためには、金融機関から多額のローンを借り入れる必要があります。金融機関からの評価である与信が高ければ、多額のローン審査も通過しやすくなるでしょう。
一般的に、次のような特徴を持つ方は、不動産ローンにおける審査で高く評価される傾向にあります。
- 年収が高く安定している
- 公務員や学校法人、上場企業など安定性の高い企業に勤めている
- (企業勤めの場合)勤続年数が長い
- 医者・弁護士などの士業系の仕事を営んでいる
これらに当てはまる方は、不動産投資における物件の購入費用をローンで賄うことで、諸費用を除く物件購入における自己資金の負担をゼロにできる可能性が高くなるのです。
どんな物件を買うかも融資の通りやすさに関係がある
不動産投資に際して購入する物件もローン審査に影響します。物件の評価を決めるのは「積算価格」と「収益価格」の2つです。
積算価格は不動産の担保価値を計測するもので、次の式で算出します。
- 土地: 相続税評価額 × 土地面積
- 建物: 再調達価格 × 建物延べ床面積 × (残存年数 ÷ 法定耐用年数)
このうち再調達価格は「同じ建物を建てるのにかかる費用」を指しており、質の高い建物ほど高くなります。また、残存年数=法定耐用年数-築年数で計算されるため、築年数が新しいほど、積算価格は高くなります。
積算価格が費用面に着目して計算された価格であったのに対して、収益価格は、その物件の収益性に着目して計算される価格です。その価格は年間運用純利益÷実質利回りで求めることができます。
年間運用純利益とは、家賃収入から、管理費や税金、修繕費、火災保険料などの経費を差し引いて実際に手元に残る金額のことです。
そして、実質利回りは(家賃収入-諸経費)÷(物件価格+購入時諸経費)×100で求められる数値で、広告等でよく見かける表面利回りより現実的な利回りを表しています。
以上を踏まえると、次のような特徴を持つ物件は、金融機関に高く評価されます。
- 地価や建物の価値が高い
- 築年数が新しい
- 物件価格に比して高収益を得られる可能性が高い
自己資金を使わずに、フルローンでの不動産投資を考えている方は、物件の厳選も大切というわけです。
オーバーローンという選択肢
不動産投資における当初の自己資金の負担をゼロにするためには、オーバーローンという方法もあります。
オーバーローンとは物件価格よりも高い金額の不動産ローンを借り入れること。オーバーローンを組めれば、諸費用に相当する金額もローンに組み入れることで、完全な自己資金ゼロで不動産投資を行うことも可能です。
担保となる物件価格より高額のローンを借りるわけなので、オーバーローンを組む際には、とりわけ借り手の信用力が慎重に審査されます。
なお、金融機関によっては借入資金を住宅購入の目的以外で使用できない制約が課されるケースや金利水準が高くなるものもあります。さらに、多く借り入れるということは、その分毎月の返済額も増え、収支悪化の原因となることもありますので、注意が必要です。
徹底比較!自己資金0%vs自己資金100%
続いては自己資金0%と、自己資金100%の不動産投資を比較してみましょう。ここでは以下の条件で物件を購入して不動産投資を行うこととします。
物件価格:2000万円
家賃収入:144万円/年(表面利回り7.2%)
管理費・修繕積立金、固定資産税等諸経費:12万円/年
ローン返済期間:20年
不動産ローン金利:年率2. 5%
まず月々の収支と総返済額で比べてみましょう。
自己資金100% | 自己資金0%
(頭金として10万円のみ負担) |
|
家賃収入 | 12万円 | 12万円 |
ローンの返済額 | 0円 | 10.5万円 |
諸経費 | 1万円 | 1万円 |
収支 | +11万円 | +0.5万円 |
総返済額 | 2000万円 | 2531万円 |
ご覧の通り月々のローン返済がない分、自己資金100%の方が月々の収支は圧倒的に良くなり、総返済額も少なく抑えられます。
しかし、不動産を買えるほどの大金を一括で支払える人はほとんどいませんし、そのお金が貯まるまで待っていては投資機会を逃してしまうこともあります。
例えば、お店を開業しようとする時、その資金を全て貯めるまで他で稼いでから始めるのではなく、銀行などからお金を借りて若いうちに始めて早く稼げるようになった方が良いと考える人が多いのと同じで、不動産投資もローンを組むことが悪いというわけではないのです。
以下のようなケースでは、自己資金を残してローン比率を高めて不動産投資を行うのも一案です。
- 若い世代などで、当面は安定収入が見込める場合
- 子育て世代などで、もしものために自己資金を手厚く残しておきたい場合
- 不動産以外にも投資をしており、残った自己資金を別の投資に充てたい場合
- 中古物件で不動産投資をおこなうため、今後の修繕費用などを確保する場合
自己資金ゼロで不動産投資を行うリスクとは?
自己資金ゼロで始める不動産投資には次のようなリスクやデメリットもあります。
- ローンの借り入れ限度額以内の物件しか購入できない
- ローン金利が高くなるケースがある
- 月々のローンの返済により月々の収支が悪くなる
- 空室時には自己資金からローンを返済する必要がある
また、手元資金が少ないことによって、次のようなデメリット・リスクも生まれます。
- 急な修繕・メンテナンスが発生した際に費用を支払えなくなる
- 病気・失業・事故などの想定外の事態に対応できなくなる
- 日々の生活費がギリギリとなり、切り詰めなければならなくなる
先述のように、自己資金ゼロでも不動産投資を始めることは可能ですが、ローン破綻の危険性が高まってしまうため、手元資金が少ない状態で不動産投資をされることはあまりお勧めできません。万が一の際に使える余裕資金を確保しておくようにしましょう。
どの程度自己資金を入れるのが理想なのか?
先述の通り、ローンを組むこと自体は悪いことではありません。
不動産投資の世界では、他人資本を活用する、レバレッジを利かせるなどと言って、金融機関から借り入れを行って、より大きな資金を動かす効果が実証されています。
自己資金を入れることで、次のようなメリットがあります。
- ローンの返済期間を短くできる
- ローンによる月々の返済額を抑え、月々の収支を黒字化しやすくなる
- フルローンよりもローン金利が下がる金融機関もある
先程の同じ条件の不動産物件を購入すると仮定して、頭金を2割入れた場合とフルローン(頭金10万円)した場合を比較してみましょう。
- 物件価格:2000万円
- 年間家賃収入:144万円(表面利回り7.2%)
- 運用期間・ローン返済期間:20年
- 不動産ローン金利:年率2.5%
頭金20%(400万円) | フルローン(頭金10万円) | |
家賃収入 | 12万円 | 12万円 |
ローンの返済額 | 8.5万円 | 10.5万円 |
諸経費 | 1万円 | 1万円 |
収支 | 2.5万円 | 0.5万円 |
総返済額 | 2035万円
(+頭金400万円) |
2531万円 |
このように、頭金を20%用意することで、月々の収支が約2万円良くなり、物件購入にかかる費用の総額も100万円近く安くなるため、頭金を一定程度は用意した場合の方が有利であることがわかります。
不動産においては建物部分の金利支払いは経費として計上し、節税効果を得ることができますが、土地部分の金利支払いは経費計上できません。
そのため、節税の観点からは土地相当の自己資金を入れるのが、効率が良いと言えるのです。
まとめ
今回紹介したように、フルローンで不動産投資を行うことは可能ですが、自己資金を全く出せない状態で不動産投資を始めることはお勧めできません。例え投資を始める際に自己資金が必要なくても、修繕費用が発生したり、空室時に赤字が出たりと、想定外の出費に対応できなくなってしまうためです。収益性と安全性のバランスを考慮し、適切な水準の自己資金を頭金に充ててローンを組むことが大切なのです。
もし、充分な余裕資金がない場合には、よりリスクの少ない商品や、自己資金が少なくて済む商品など、他の投資から始めてみるという選択肢もあります。不動産投資における自分にとっての適切な自己資金やローンの水準がわからない方や、まだ安全にローンが組めるだけの余裕資金が貯まっていない方は、まずは、セミナーなどを活用してさらに知識を深めた上で、改めて不動産投資の方法を検討してみるのも良いでしょう。